いつも長文駄文になってしまって自己嫌悪している中、励ましのメッセージを有難うございます。先生が勉強をしていないというのは勿論謙遜だと思いますが。。
ここは一般の方もご覧になるので、ちょっとだけ専門的に、今回は遠慮なく長文でご説明して行きます。
まず、臨床で遭遇する事実として「フッ化物の応用をしてきた方」というのは、ひと目で分かるぐらい丈夫な歯になっています。
歯が丈夫になりすぎて、プラークコントロールがおざなりになり、将来歯周病で苦労してしまうんじゃないかと心配になるぐらいです。
私が遭遇するそういった患者さんたちは、幼少期に親の薦めでミラノール(フッ化物洗口)と、歯科医院でのフッ素塗布(高濃度フッ化物ジェルの塗布)をしてきた方の様です。
私たちは社会から歯科医療について任されているわけですから、きちんと過去の研究事実に基づいて、害が少なく、良さそうなことを患者さん個々に合わせて薦めていくことになります。
研究事実からいけば、虫歯予防にプラークコントロールはおそらく有益、フッ化物の応用は(エナメル質に起きる虫歯については)間違いなく有益、ということになるかと思います。フッ化物以外の、CHXやCPCでは副作用、効果、データの蓄積のどれをとっても比較になりませんし。
それともう少し詳しく言いますと、フッ化物は若年者にとっては現在のところ最高に有益、成人期以降については曖昧。といったところでしょうか。
ですが成人についてのデータが乏しいのは、もともとの虫歯の発生率が非常に低いこと(データを作るのに実験期間が非常に長くかかってしまうので)と、データを作るのに影響する要素が多すぎる(全身疾患、喫煙、飲酒、不良充填・補綴、幼少期のフッ化物への暴露などなど)のが影響しているのだと思います。
ですから、成人についても、フッ化物は悪くはないけど(副作用は成人についてはまず心配ないですからね)期待は出来ると考えるのが妥当だと思います。
成人にはデータがないんだからフッ化物は意味がないという意見もあるでしょうが、他に代わるものもない訳ですから、子供から大人まで、予防の大切さに気づいた時から一生適用して良いと考えます。
各種のフッ化物応用法の効果の比較については、Cochraneのレビューだけ知っておけば十分だと思います。(http://www.cochrane.org)
ただ、英語が相当堪能でないと結論にたどり着けませんので、英語の苦手な私が2003年のアップデート版(Topical fluoride (toothpastes, mouthrinses, gels orvarnishes) forpreventing dental caries in children and adolescents(Review)Marinho VCC, Higgins JPT, Logan S, Sheiham A Date of most recent substantive amendment: 20 August 2003)をもとにまとめたものを以下に記載します。
正確な内容はできればご自分で確認して下さい。
若年期の3年間でのウ蝕予防度(133の研究論文より)
【各種フッ化物応用 vs 偽薬・プラセボ(Placebo)について】
フッ素添加歯磨剤 vs Placebo
26%(95%CI 0.25-0.27%)
フッ素ジェル vs Placebo
23%(0.18-0.28)
フッ素バニッシュ vs Placebo
35%(0.24-0.46)
フッ素洗口 vs Placebo
27%(0.24-0.29)
【各種フッ化物応用 vs 何もしない場合(NT)について】
フッ素ジェル vs NT
47%(0.42-0.52)
フッ素バニッシュ vs NT
52%(42-63)
フッ素洗口 vs NT
33%(27-40)
Total 26%(23-29)
これらの結果について、先ほど説明しました年齢のこと以外にも解釈は色々できると思います。
ですが私が考えるに重要なことは、どの方法も有益である(もちろん重大な副作用については報告はありません)という点です。
ですから、誰でも出来ることは誰にでも薦めて、リスクの高い人にはちょっとめんどくさい方法も組み合わせて行くという姿勢で良いと思います。
具体的なブラッシング方法の指導や、食事指導などもここに含みます。
で、誰にでも出来ることと言えば、フッ素添加歯磨剤の使用が一番楽で、既に知らずに実践しているかと思います。
現在は歯磨剤のシェアの90%程度でしょうか。
それでも虫歯の出来てしまう方に対して、プラスアルファするとすれば田尾先生の言われる通り、洗口法だと思います。
ただ、いくらいいものと分かっても、ミラノールを探して買い続けて使い続けることが現実的かという問題があります。ですから、代案としてイエテボリテクニックを私は勧めます。
⇒参考:イエテボリ法(イェテボリテクニック)
歯に良いということは誰でも知ってるフッ素(歯磨剤などに配合されているフッ化物が、口の中で唾液や水に溶けた状態)ですが、これがコップの水や唾液で洗い流されると、効果が激減してしまうということが意外と知られていない気がします。
実はイエテボリテクニックもペーストの量などに少し現実的でないところがあるので、「多目にペーストを使用し、出来るだけ水で洗い流さないこと」と「歯磨き後、30分〜できれば2時間、飲食を避ける」という点を強調して説明するようにしています。
フッ素洗口は一般的に500ppm前後のフッ素濃度を使用することが多いと思いますが、追跡研究では100ppmでも十分な結果が得られたとのことです。
実際の濃度を計算してみたことはないですが、日本のフッ素添加歯磨剤のフッ素濃度はご存知の通り1000ppm弱ですから、これを何グラムか、唾液や多少の水で薄めて洗口してあとのうがいを避けるという方法は理屈に合っていると思います。何よりも新しく何かを購入する必要がありませんし。
歯磨き後、コップを使うとそれ以外の人より約20%ウ蝕が多かった(Chesters et al 1984,Shogren & Birkhed 1993, O’Mullane et al 1997)歯磨き後、泡をはき出さず、少量の水を加えて、マウスリンスの様に用いる方法を指導した結果、隣接面のカリエスが26%予防された(Shogren et al 1995)などの研究結果もイエテボリテクニックの有益性を裏付けています。
回数としては、これも様々根拠はあるのですが、歯磨きを寝る前に1回と、他に1回以上する様にカリオロジーの教科書には(推奨)として書かれています。でその時にはついでにイエテボリテクニック的なことをするようにと。
あと本家イエテボリ大学の先生が曰く、「ハイリスクの患者さんには一日5回以上のフッ化物応用を」と言っていますので、そういう方には毎日、イエテボリテクニック3回、ミラノール2回という組み合わせもいいかも知れませんね。
あとフッ素ジェル(歯科医院専用高濃度フッ化物ジェル)の使用は、日本ではメーカーの指定で、年に数回のみとなっていますが、70年代には、11〜14歳の子供500人に対して、5000ppmFのAPFまたはNaFを1〜2mgトレイで6分間を、なんと年間平均140回も行い、1.8年後には何もしなかったグループと比較して77%{95%CI:0.67〜0.87}の予防効果を叩き出したというちょっとスゴイ論文もあります。(Englander(1976))
たださすがに副作用として、enamel etching(歯の白濁)ぽいのが多少はあったようです。ですから個人的には、リスクが多少でもある方なら、検診で歯科医院に来たときぐらい、ついでにフッ素ジェルの使用も勧めていいと思っています。
こんな感じですが、最後までお疲れ様でした。お互いに、時間とお金は搾り出して勉強し、患者さんが安心できる、良い医療を目指していきましょう。
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