実際のところ、何百ミクロン以上の隙間があると二次齲蝕が何%増える・・といった様な研究報告はない様に思います。
ですがおそらくこれについては、交絡因子(結果に影響する可能性のある、本題(隙間)以外のあらゆる因子)が多すぎて、研究を行うこと自体が難しい、といった事情によるものだと思われます。
・・となると、やはり歯科医師、歯科技工士が行うべきことは可能な限り高い適合性を追求していくことにはなるかと思うのですが、かける手間や、患者さんにご負担頂く時間やコストとのバランスについて、確かに悩ましい問題です。
以下想像もありますが、普通の合着用のセメントの場合はご指摘の通りのことが起こるはずです。
仮着用のセメントはそれが更に顕著になりますので、仮着はやはり仮着と考え一時使用に留めるべきでしょう。
合着用セメントは、水分で分解されていくことも知られていますから、適合が悪ければ唾液にも触れますし、プラークが溜まれば強い酸にも晒されます。
「脆い」材料ですからカタカタ動く様な精度ではセメントは徐々に破壊されていくはずです。
最近はレジン系の接着性セメント(充填用のレジンに近いもの)も多用され、個人的には今はこちらしか使ってないぐらいなのですが、それでも長期的に、補綴物の精度が悪かったとしても安心出来るというほどの材料ではないと思っています。
基本的には似た様な問題が多く、利点もあるのですが別の問題もあるのですが、長くなるので割愛するとして、結論としては「隙間はセメントが埋めるから大丈夫」という考えは楽観的すぎると思います。
それと、補綴物の精度が悪いということは、何も数百ミクロン(0.数o)程度の「隙間」ばかりではなく、ミリ単位での隙間や、浮き上がり、段差、オーバーハング等も起こりえますし、日常臨床の中では頻繁に見かける問題でもあります。
セメント層の露出の有無だけでも上述した様な問題が考えられるのですが、今挙げた様な形態不良は明らかにプラークを溜め込む原因になりますので、プラークが引き起こす問題(歯肉炎〜歯周炎、二次齲蝕)の間接的原因として重要視するべきだと思います。
個人的には、予防というのは治療終了後の話ではなくて、充填や補綴処置の段階から最大限配慮(精度を高くする、清掃性を考慮した形態、素材の選択、研磨等)するところからすでにスタートしていると感じていますし、もっと言えば原因の分析、改善策も当然関わってきますので、患者さんと出会った瞬間から予防への対策というのは始まると思います。
そういう意味では補綴物の精度というのは予防の主役とまでは言えないと思いますが、決していい加減に考えて良い問題とも思えませんね。
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