横から失礼します。
>最初の処置は、不適切でも、根の先までの充填にこだわったら少しはましなのでしょうか。
逆ですね。
根管充填の質(長さや密度)は、成功率とある程度の相関はあるのですが、重要度はとても低いです。
あくまで処置全体の枝葉の話であって、根管治療の目的は
・可能な限り無菌に近い状況にすること
・再感染しない様にすること
のふたつです。
言い換えると、
・無菌的(少しでも無菌に近い状態で、と言う意味です)に処置を行い、出来るだけしっかり消毒すること
・しっかりと封鎖すること
です。
ソウタさんの場合、今回初めて神経を抜かれた様ですから(抜髄、初回治療と言います)、根管の中は元々ほぼ無菌です。
ですから、厳密に無菌状態での処置がもしも可能だったら(※現実には不可能ですが)、消毒もせず、根管充填はしなくても蓋さえきちんとすれば全く問題ありません。
実際には少々の細菌感染は残っても、身体の免疫力も強いですから、どんな処置方法でもうまく行くことは多々あります。
抜髄がもしも一度失敗して、根尖病変を作ってしまうと(感染根管・再治療)、根管の中(アリの巣みたいな形を想像して下さい。単純な形ではないです)では複雑でしつこい細菌感染を引き起こしてしまいます。
ですから初回治療の成功率が約90%に対して、再治療では約60-70%(※欧米の専門医が行って、です)に下がってしまう訳です。
参考⇒根管治療TOP
今回、根管充填の長さを気にされている様ですが、根管治療の成功のために根管充填の質(長さや密度)を最重要視していたのは70年代とか、たぶんその頃までだったと思いますよ。
因みに疫学的には、オーバーや根の長さちょうど(※解剖学的には実質オーバー)よりは、やや短め〜短めの方が良さそうな傾向はある様です。
●代表的な疫学調査記録
[Endodontic treatment and periapical state. I,?. Radiographic study of frequency of endodontically treated teeth and frequency of periapical lesions]
Bergenholtz G, Malmcrona E, Milthon R.
Tandlakartidningen. 1973 Jan;65(2):64-73. , Mar 1;65(5):269-79. より
(No abstract available. )
他院で根管充填されて、根尖病変が発現した1000本の歯の根管充填の質を記録したところ、そのうちの割合は
根管充填が 高密度 ぼそぼそ
2mm以上短い 24% 27%
2mm以内短い 12% 23%
0mm 25% 47%
飛び出してる 27% 55% (※数値が小さいほど良い)
Prevalence of previous endodontic treatment, technical standard and occurrence of periapical lesions in a randomly selected adult, general population.
Odesjö B, Helldén L, Salonen L, Langeland K.
Endod Dent Traumatol. 1990 Dec;6(6):265-72.
⇒文献はこちら
より、
ある地方で無作為に選ばれた920人、1876本の歯を調査
根尖病変の発現割合は、
根管充填が 高密度 ぼそぼそ
2mm以上短い 17% 23%
2mm以内短い 13% 15%
0mm〜飛び出してる 56% 47% (※数値が小さいほど良い)
ですからソウタさんの場合、「根管充填の質」だけを見れば、一般的に言えば(重要度は高くはないですが)悪くはないと思いますよ。
・・と、そう言った訳で、現在では上述の様な根拠から、「良いに越したことはないけれど、それほど重要な要素ではない」と言う捉えられ方が一般的かと思います。
もしも仮に捉え方を誤って、ソウタさんが現在の医院で再根管充填をお願いしたとすると・・・
せっかくもしかしたら根管の中に大した量の細菌が残っていなかったとしても、治療中にまたうがいをしたりして、更に増える可能性があります。
更には無理やり根っこの先まで充填を試みてもらった為に、根っこの余計な方向に穴をあけてしまったり(パーフォレーション)、汚れを根っこの外にまで押し出してしまって、再根管治療が不可能になってしまう危険さえあります。
今回大事な歯の神経を抜くことになってしまい、少しでも良い治療を受けたい、と言う気持ちはあるかと思いますし大変理解できるのですが、日本の健康保険、歯学部教育の現状から考えれば、ソウタさんが受けられた処置は平均的と言わざるを得ません。
例えばラバーダムは赤字覚悟でないと出来ませんし、無菌的処置の重要性は歯医者自身もあまり自覚していないと言うのが現状です。
担当の先生の言動も、悪意は全くないと思いますよ。
抜髄処置と言えども、欧米の専門医の様な内容で教科書通りに行えば1回のアポイントが1時間〜2時間はかかりますし、費用も海外だと5万円〜20万円とか、それぐらいはかかると思います。
厳しい書き方になってしまうかも知れませんが、今回受けられた処置は値段なりのものですし、根管充填が気に入らないからと言って似た内容の再治療を求めるとしたら、それはかえってリスクが高くなるだけだと私は思いますよ。
うーん・・書こうか迷ったんですが・・書いちゃいました^^;
ご参考までに。
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