結論としてはタイヨウ先生と同じです。(タイヨウ先生もはじめまして)ですので、今回はまたマニアックに、あれもこれもに超詳細に書きますので、解決してたらもういいです。またうっかり長くなってしまって。。
歯周病と初期虫歯に対して良い薬や使い分けはないか、とのご質問だと思います。(初期虫歯に関しては「虫歯予防に対するフッ素の効果的な使用法とは?」にマニアックすぎる解説がありますので参照してみて下さい。)
随分とお口の健康に関心をお持ちの様ですのでお気づきなのだと思いますが、NOさんの様に「なおかつ歯周病予防も!」というよくばりさんにはポイントがあります。
“フッ素の効果は洗口によって激減してしまう”という点です。
ですから、理屈で考えれば、「フッ素も入っていてなおかつ歯周病菌にも効く薬で洗口(または歯磨き)する」か、「フッ素を使いつつ歯周病菌に効く薬を内服する」の、このどちらかの組み合わせが現実的だと思います。
説明が短く済みそうな「内服」作戦の方からご説明します。
欧米では数種類、歯周病に対して効果があると認められている抗生剤があります。ですが、日本で歯周治療目的においては認可されていません。
患者さんと同意の上で使用する先生も一部いらっしゃいますが、正攻法でどうにもならない難治性の歯周病の治療に限り、最後の手段として使用するのが普通だと思います。
使用する量も非常に多いですから、“善玉菌”“悪玉菌”のバランスが身体中でどうなるのか、リスクは高いと思います。
日本では抗真菌薬が有効だと主張して使われるグループもあるのですが、臨床データが乏しく、学会は認めていません。(過去にこの方法を掲載した新聞社と学会がもめたこともあります。)
どちらも、可能性はありますが、日常的に試す様な方法とは言えませんから、まずは考えない方が賢明です。NOさんのおっしゃる通り、内服するという使い方は身体中に影響が出る可能性を否定できませんので。
では本丸の「洗口(または歯磨き)」作戦の可能性をご説明します。
日本では、デンタルリンスの中にフッ素も配合してあるという製品はありません(海外では一般的なのですが、日本ではなぜか厚生労働省が禁止しています。)ので、NOさんは初期虫歯があることが判っているのですから、フッ素の効果的な利用を前提とし、ねり歯磨きを中心に考えた方がいいと思いますよ。
豆知識ですが、フッ素の中でも一般的な、「モノフルオロリン酸ナトリウム(MFPと略してある場合もあります)」よりも「フッ化ナトリウム(NaF)」を配合してあるものの方が、気持ちとしては5倍ぐらい、フッ素の効果が期待出来ます。(水に溶ける割合が異なるため。ですが臨床試験ではほとんど差は確認されていません)
で、それとプラス、歯周病に効く成分があるのかどうかが問題です。
“歯周病に効く”と言ううたい文句には少し気をつけなければなりません。
NOさんの言われる通りに、“歯周病菌に効く”ならいいのですが、“歯周病の症状に効く”ではちょっと問題です。
後者は、例え歯周病菌には作用しなくても、出血を抑えたり(=歯ぐきがひきしまる)、臭いがなくなればいいのですから、私が開発者なら、ボクサーが試合中に使う様な止血剤と、ハッカか何かを入れて“歯医者さんが考えた、歯周病によく効くねり歯磨き”を作るかも知れません。塩や漢方薬が入っていたりするのは、多分この止血作用なのではないでしょうか。(もちろん歯周病自体の解決にはなりません。)
そして残念ながら市販されている商品にも、こういった言葉の使い分けをきちんとはされていませんので、成分を見て自分で判断することになります。
では、ねり歯磨きや洗口液に混ぜられて、“歯周病菌に効く”成分があるのかどうかですが、最も有名なのはクロルヘキシジン(CHX)です。
クロルヘキシジンについては古くから多くの研究がなされ、歯周病菌の抑制効果(“殺菌”とは言えません)が世界的に認められています。これについてはまた後で詳しく。
他にも塩化セチルピリジニウム(CPC)やエッセンシャルオイルなどが古くから研究数が多いですが、これらは口に長く停滞できないためか、その効果はぱっとしない様です。
比較的最近は、トリクロサンという成分も多く研究されています。研究論文や海外製品では0.3%ぐらいの濃度のものが多く、歯周病の改善に確かに効果がある様です。
ただ日本では厚生労働省の推奨が0.02%。それに対して各社がもう少し濃度を挙げて、安全性についてのデータを出して許可を得る。という形なのだそうで、各社濃度は公表しません。
ですから、本当に有効濃度含まれているのかどうかは判断できません。
どちらにしても、トリクロサンはもともと洗濯洗剤に含まれているような殺菌成分で、環境問題の点から日本ではすたれてきつつある様です。
他にもいろいろと各社が研究した上で有効成分として配合しているのですが、本当にいいのかどうかは、まだ判断がつかないといったところでしょうか。
さて、前置きが長くなりましたが4番バッター(かも知れない)クロルヘキシジンについてお話します。
クロルヘキシジンは歯周病菌の抑制、その後の症状の改善について“有効”です。
研究論文の数も非常に多いのでこれは間違いなさそうです。
ところが、薬を使う場合は何でもそうなのですが、有効濃度・作用時間・副作用について常に考慮する必要があります。
有効濃度についての世界標準は0.1〜0.2%以上です。
日本では1985年から、この濃度は口の中の粘膜への使用を禁止しています。理由としては、過去に重篤なアレルギーショックなどが日本で報告された(なぜか日本だけなのですが??)からと言われています。(それも1件や2件ではなく、30件以上あるのだそうです。)
作用時間についても、結構長い時間口に含む必要があるようです。
臨床研究では、決まりはない様ですが、毎日1分間を2セットずつとか、それぐらい作用させていたと思います。
あと副作用。もちろん日本で市販されている様な低濃度では先ほどのアレルギーなどの心配はありませんが、味覚障害、歯石の形成、歯や舌やほっぺたの粘膜の着色は毎日使うなら一応注意した方がいいかも知れません。
以前に、ウエルテックさん(クロルヘキシジン配合製品で一番有名な会社です)の方に「着色しますよね?」と聞いたら、「ですからこちらも週に1度ぐらい使うのです」と、シリーズの着色除去用の商品を差し出されました。
着色については気にならないという話も聞きますが、クロルヘキシジンは歯面や粘膜に長時間(12時間ぐらいと言われます)停滞することでその効果を発揮します。
が、そのクロルヘキシジンには色素などが沈着しやすいですから、逆に着色するぐらいの方が本当に効いてる感じはします。
また肝心の、歯周病菌のたまり場である歯周ポケットの深い部分には、浸透しないことが確認されていますし、使い続けないと、せっかく抑制した歯周病菌も、数日で元に戻ってしまいます。虫歯の抑制効果なども一応言われています。
ということで、日本では一般的に有効といわれる濃度はどれも残念ながら使用できません。
トリクロサンは環境問題から人気がかげり始め、一番期待されていたクロルヘキシジンは、欧米でも副作用などの理由から、日常的に使用するのではなく、歯ぐきやインプラントの手術の後などに限り、0.1-0.2%のものを短期間限定で使用してもらうそうです。
実は一昔前でしたら、日本の歯磨き粉にも低濃度とはいえクロルヘキシジンが多く配合されていたらしいのですが、現在は効果もあまり期待できず(ウエルテックさんは効果があると言います)、イメージも悪化(アレルギーのこと)したため他のもの(CPCなど)に変えているということです。
結論として、歯周病菌に効く。とはっきりデータがある成分を配合しているものは、日本にはやっぱりありません。
それではタイヨウ先生のおっしゃる通り、元も子もありませんから、希望が持てるものとしては、クロルヘキシジン(CHX)(ConCoolジェルコートFは0.05%CHXと、950ppmフッ化ナトリウム配合)始め、トリクロサン(PCクリニカ、システマ、GUM、ミクロクリーンなどに配合)、塩化セチルピリジニウム(CPC)(たくさんあります)、エッセンシャルオイル(リステリン)などが考えられます。
フッ素と同時に使用することを考えれば上記の様なものが配合されているねり歯磨きを選ばれると良さそうですよ。
成分を見て色々楽しみながら、選んでみて下さい。
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